なぜ地域活性化が必要なのか

大学で地理学を勉強していた頃から、地域活性化について考える機会は多かった。バブル崩壊以降、地方経済は下り坂の一途を辿っている。2011年に人口減少社会に突入した日本だが、地方の人口減少は今に始まったことではない。増田寛也が座長を務める日本創生会議によると、現在と同程度の人口流出が続くと仮定した場合、2040年までに日本の自治体の約半数が人口減少によって消滅するらしい。秋田県に至っては大潟村を除く全ての自治体が消滅可能性都市に指定された。県庁所在地である秋田市さえ20年程で存続できなくなるというのは驚きの結果である。このままでは地方は滅びてしまう。地方の存続のためにも、地域活性化が必要である。

しかし、そもそも地方の存続というのは必要なことなのか。東京や大阪といった大都市に住む人間の大多数にとって、地方が消滅しようが正直知ったことではないのではないか。大学を卒業して地方に住むようになってからも、なぜ地域活性化が必要なのかという質問にはなかなか答えられないでいた。地理が好きな者として、直感的に地域活性化が重要であることは感じていたが、明確な論理は持っていなかった。多額の税金を投入してまで地方を維持することは正しいことなのか。もちろん地方に住む人の郷土愛を無視するつもりはないが、日本全体として考えたときに地域活性化は合理的と言えるのか。

大都市に人口を集めれば、行政やインフラに要するコストは格段に減る。人口が数千人の町、あるいは数百人しかいない村であっても、電力会社は送電線を敷いて電気を送らなければならない。どう考えても赤字である。実際に鉄道会社は不採算路線からの撤退を始めている。JR北海道においては札幌近郊を除く全ての路線が赤字となっている。人口減少社会に突入した日本において、資金面でも人材面でも地方に投資を続ける余裕などないのではないか。都市の効率的な運営を目指すコンパクトシティという概念があるが、これは効率化の名の下に郊外を切り捨てる政策である。日本全体でこのような効率化に取り組もうとすれば、採算の合わない地方は真っ先に切り捨てられるだろう。

地方に住む人々の心情を無視した暴論だが、日本全体の利益を考えれば上記の論はそれなりに妥当性を持っているように思える。しかし、イノベーションと多様性という観点から考えると、地方切り捨てが本当に正しいことなのかは疑わしい。経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは経済成長の要因が企業家による不断のイノベーションにあることを突き止めた。イノベーションを生み出すには固定観念に縛られない創造性、多様性が必要である。環境が同じ人間はどうしても思考が似通ってくる。東京で生まれ育った人間だけで果たして今まで以上に多くのイノベーションを起こすことができるだろうか。

都市経済学者のリチャード・フロリダはニューヨーク、ロンドン、パリ、東京といった一握りの大都市圏が世界経済を動かしていることを明らかにした。メガ・リージョンと称されるこうした大都市圏は世界に40程度しか存在しないが、世界のGDPの3分の2を生み出し、イノベーションの85%を起こしている。それは創造的な仕事をするクリエイティブクラスの人材が大都市に集中し、彼らの仕事が高い付加価値を生み出すためである。ヒト、モノ、カネ、情報が集まる大都市は、イノベーションを生み出す上で重要な空間である。しかし、それは地方から様々な人材や情報が集まっているためでもある。地方からの供給が途絶えれば、大都市は今までのような高いパフォーマンスを発揮できなくなるのではないか。

地方には地方独自の魅力や課題がある。魅力よりも課題の方が圧倒的に多い場合がほとんどだが、そうした環境の違いによって地方の人間は東京で生まれ育った人間とは異なる思考を持っている。それは東京で生まれ育ち、大人になって東北に移住した自分が体感的に理解したことである。良い面も悪い面もあるが、東京に住み続けていたら考えなかったことが沢山ある。リバース・イノベーションという概念がある。これは制約の多い新興国において斬新なイノベーションが生まれ、先進国に逆輸入されるケースを説明した理論である。地域ならではの課題を解決しようと考える中で、今までにはないアイデアが生まれることも多くあるだろう。また、地方を見つめる中で東京の課題が浮き彫りになるケースもある。

即ち多様性の源泉として地方の存続は重要なのである。地方の多様性を維持するためにも、地域活性化によって魅力ある地方をつくることが必要である。イノベーションを起こすには無駄に思えるような遊びの部分が欠かせない。経済学者クレイトン・クリステンセンは巨大企業が新興企業の前に呆気なく敗れ去る要因として、イノベーションのジレンマという概念を提唱した。巨大企業は収益性の高い魅力ある商品を有しており、その商品の持続的な改善には力を発揮する。しかし、既存の商品が優れた特色を持つために、既存商品の価値を破壊することには躊躇いがあり、新しい価値を持つ商品を生み出そうとする動機が失われしまう。結果として新しい価値を持った商品を生み出すのは新興企業であり、その破壊的イノベーションの前に巨大企業は敗れ去る。効率性だけを突き詰めてはイノベーションは生まれない。多様性の中からイノベーションが生まれ、社会経済は成長していく。遠回りのように見えるかもしれないが、地域活性化を積み重ねていくことはきっと日本の将来の役に立つ。日本の近代化は薩摩と長州から始まった。地方の多様性なくして、明治維新は起こり得なかった。

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