2016年10月27日木曜日

東京電力は原子力事業を分社化すべきか

東京電力の原子力事業を分社化させるという案が浮上している。福島第一原子力発電所の廃炉費用が想定額を大幅に上回ることが明らかとなり、今まで以上に踏み込んだ東電改革が必要とされているためである。東京電力は既に小売部門を東京電力エナジーパートナー、送配電部門を東京電力パワーグリッド、発電部門を東京電力フュエル&パワーとして分社化しており、特に発電部門については将来的に中部電力と統合させる動きもある。原子力発電事業については持株会社である東京電力ホールディングスに残されたが、経済産業省は火力発電事業と同様に原子力発電事業も分社化して他社と提携させる考えである。他社との提携によるスケールメリットで事業の効率性を高めるというのが表向きの理由だが、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働が真の狙いではないかというのが報道各社の見方である。

柏崎刈羽原子力発電所は出力821万kWという世界最大の原子力発電所であり、福島第一、福島第二と並んで、東京電力にとって利益の源泉となる発電所であった。福島第二の再稼働が現実的に不可能である以上、東京電力にとって唯一の頼りとなるのが柏崎刈羽である。最近まで東京電力と経済産業省は柏崎刈羽の再稼働によって廃炉費用を捻出するというプランを描いていた。しかし、新潟県知事選挙の結果は東京電力と経済産業省にとって予想外のものであった。米山隆一は過去に原発再稼働を熱烈に推進していたにも関わらず、県知事選の出馬に至って反原発に鞍替えした非常に信用ならない人物であるが、新潟県民が柏崎刈羽の再稼働にNOを突き付けたことは間違いない。柏崎刈羽の再稼働は絶望的といっても過言ではないだろう。

そこで経済産業省が考えた秘策が原子力事業の分社化なのだと思う。事故を起こした東京電力への不信感は拭えない。それならば原子力事業を分社化して東京電力の看板を外せば良いのではないかと考えたわけである。具体的には柏崎刈羽原子力発電所を東京電力から切り離し、東北電力の原子力部門に統合させるという案である。一橋大学の橘川武郎教授が以前から提唱している案であり、新潟県を営業地域とする東北電力が事業主体となれば地元の同意を得やすいのではないかという考えである。東北電力の女川原子力発電所は東日本大震災において福島第一を上回る規模の地震と津波に直面したが、福島第一のような事態に陥ることなく、後に行われたIAEAの調査では驚くほど損傷を受けていないという評価を得ている。また、東北電力は東京電力と同じ沸騰水型の原子炉を採用しており、地元電力会社として柏崎刈羽原子力発電所の開発にも密接に関わってきた経緯がある。柏崎刈羽の再稼働が遅々として進まない中、ついに東北電力との提携案が本格化してきたのである。

しかし、東北電力との提携案はあまりにも無謀な素人考えだと思う。東北電力は既に女川原子力発電所と東通原子力発電所という二つの原子力発電所を抱えており、こちらの再稼働で手一杯の状況である。この上さらに柏崎刈羽の再稼働まで任されるような事態になれば、東北電力の原子力部門で働く社員は電通もびっくりの過重労働を強いられるようになるのではないか。また、東北電力には柏崎刈羽に出資するだけの資金的な余裕もない。東日本大震災によって東北電力が受けた財務的な被害は甚大であり、五年をかけて何とか財務状況を回復した段階にある。柏崎刈羽が競争力のある電源であることは間違いないが、東北電力の営業地域は人口減少が著しく、今後は電力需要が減少していくことが予想される。柏崎刈羽の電気を全て東京電力に固定価格で売電できるというのであれば話は別だが、売り先に困るような事態に陥れば宝の持ち腐れになってしまうだろう。

そもそも東京電力は柏崎刈羽を手放して良いのだろうか。東京電力にとって柏崎刈羽は福島第一の廃炉に必要なキャッシュを生み出す最重要資産である。他社との提携は廃炉に必要なキャッシュを社外に流出させてしまうことにはならないか。もし柏崎刈羽の利益を全て廃炉費用にするというのであれば、そもそも他社にとって提携するメリットはない。そして原子力発電に限った話ではないが、リスクをゼロにするというのは不可能である。そこで社会が受け入れ可能なレベルにまでリスクを下げることが焦点となるわけだが、東京電力の看板を外しただけで新潟県民はリスクが下がったと感じるのだろうか。

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