2016年5月21日土曜日

経営戦略全史まとめPart7 最後の答え「アダプティブ戦略」(2010年代~)

★ダンカン・ワッツ(1971~)
コロンビア大学の社会学者ダンカン・ワッツは著書「偶然の科学」において、過去と現在を必然と思いたがる人間心理、結果から全てを判断してしまうハロー効果、自己に対する過大評価が大失敗を生み出す要因となることを指摘した。失敗を回避するためにワッツが提案するのは衆知と対照実験に学ぶ方法である。衆知を集める方法として、幅広い参加者を募って問題解決を図るオープン・イノベーション、身近な成功例を手本に問題解決を図るブライトスポット・アプローチを挙げており、実践による試行錯誤こそが解決策となると論じた。

★エリック・シュミット(1955~)&ラリー・ペイジ(1973~)
試行錯誤型の経営で知られるのがエリック・シュミット、ラリー・ペイジが率いるグーグルである。グーグルはインターネットにおける対照実験とも呼べるA/Bテストを繰り返し、検索サービスの改善に努めてきた。また、2015年に持株会社アルファベットと複数の事業会社に組織再編をしたことからも分かるように、グーグルは本業である検索サービスから離れて様々なIT事業に進出を続けている。Blogger、Gmail、Googleマップ、YouTube、Androidといった事業は無数の失敗の中から生まれてきた。クレイトン・クリステンセンが主張するイノベーションのジレンマを克服すべく、グーグルは社内に小規模ベンチャーを生み出し続けている。

★ティム・ハーフォード(1973~)
イギリスの経済学者ティム・ハーフォードは著書「アダプト思考」において、イラク戦争におけるアメリカ軍の失敗と成功を分析した。1991年の湾岸戦争を契機に、アメリカ軍は情報システムを中核とした空爆・無人兵器・特殊部隊中心の機動戦を基本とするようになり、全ての情報を握る司令部が戦略を決めるトップダウン型の組織へと移行した。しかし、イラク戦争においてトップダウン型の情報戦は大失敗に終わる。アメリカ軍はゲリラやテロに対する治安維持に苦戦し、8年半の占領統治は膨大な数の死傷者を生み出した。現場からの意見が排除され、ラムズフェルド国防長官を中心としたトップの誤った作戦が続けられたためであった。

ラムズフェルド国防長官の更迭後、イラク駐留軍の司令官に任命されたデヴィッド・ペトレイアス大将はアメリカ軍をボトムアップ型の組織に改編した。現場は既に対ゲリラ戦の核心がゲリラの殺害ではなく民心の掌握にあることに気付いていた。民間人の保護と生活向上のための資金提供やインフラ整備を行うことでイラクの民心を掴んだアメリカ軍は劇的に死傷者を減らすことに成功する。試行錯誤型の組織運営は企業経営だけではなく現代戦においても効果を発揮している。

★ティム・ブラウン(1962~)
デザインファームIDEOのティム・ブラウンは、「良い解決策はユーザーを中心とした試行錯誤からしか生まれない」というデザイン思考を掲げる。対話による質問や現場の観察からユーザーの状況や気持ちを理解して共感することから始まり、試作品によって問題解決のアイデアを具体化していく。机上の議論より試作と検証を重視するデザイン思考はイノベーションの世界において注目を集めている。

★スティーブ・ブランク(1953~)&エリック・リース(1979~)
スティーブ・ブランクはスタートアップ4社を株式公開に導いた天才アントレプレナーである。ブランクはスタートアップにおいて必要なチームは商品開発と顧客開発のみであると説く。スタートアップの多くが商品開発に没頭して顧客開発に失敗していることを見抜いたブランクは、顧客がいるのか検証して軌道修正を図っていくことの重要性を論じた。さらに起業家エリック・リースは著書「リーン・スタートアップ」において、ブランクの考えをスタートアップ・マネジメント全体に拡張する。トヨタ生産方式のエッセンスも取り入れたリースは、実用最小限の製品MVP(Minimum Viable Product)を試作して無駄のない迅速な試行錯誤サイクルを回していくことでイノベーションの成功率を劇的に上げる手法を提案した。

★マーティン・リーヴス(1961~)
BCGのマーティン・リーヴスは事業環境の予測可能性、企業行動の事業環境への影響力、事業環境の過酷さという3点から事業環境を分類し、企業は事業環境に応じて適した戦略を選ぶべきであると論じている。事業環境が過酷な場合、無駄の排除や効率向上に注力するサバイバル戦略が適している。電機メーカーの過酷なグローバル競争に苦しむシャープが該当するだろう。事業環境が予測可能でも支配できない場合、競合他社に対するポジショニングに注力するクラシカル戦略が適している。競争の激しい古くからある業界にはクラシカル戦略が適しているだろう。事業環境が予測可能で支配できる場合、将来のビジョンを創り実現方法を考えていくビジョナリー戦略が適している。起業家が活用することの多い戦略である。事業環境が予測困難でも支配できる場合、企業群が規格統一を図って事業基盤を形成していくシェイピング戦略が適している。デジタル革命の初期にIT企業群が選択した手法であり、新たな産業の創成期や大きな変動の後に見られやすい。環境が予測困難で支配もできない場合、試行錯誤を繰り返して迅速に対応するアダプティブ戦略が適している。流行の変化が激しい小売業界に適した戦略で、ファストファッションのZARAやH&Mが取り入れている戦略である。事業環境の変化が激しい21世紀において、アダプティブ戦略は有効な戦略となるだろう。

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