2016年5月8日日曜日

経営戦略全史まとめPart3 ポジショニング派の大発展(1960~1980年代)

★ブルース・ヘンダーソン(1915~1992)
ブルース・ヘンダーソンは1963年に創業したBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)をマッキンゼーと並ぶコンサルティングファームに育てた。ヘンダーソンの下でBCGは様々な経営戦略のコンセプトを生み出していく。ジョン・クラークソンが発見した経験曲線もBCGが生み出したコンセプトの一つである。累積の生産・販売量が倍になるとコストが一定の割合で減少していくことを示した両対数グラフであり、短期的な利益を度外視して市場シェア拡大を求め続けた当時の日本企業を説明するものでもあった。生産・販売量を増やして市場シェアを上げることが経験曲線を競合より早く駆け降りる近道であり、日本企業躍進の秘密であった。

BCGは日本経済の躍進に早くから注目したコンサルティングファームであり、日本的経営を世に広めたジェイムズ・アベグレンの下で1966年に早くも東京オフィスを設立している。財務論の研究者アラン・ゼーコンを招いて生み出したのが持続可能な成長の方程式で、借入比率を高めることが持続可能な高成長につながることを示した。アメリカ企業が自己資本比率を高めることに躍起になっていたのに対して、借入金を増やして事業を拡大する日本企業が高成長を遂げていた原因を説明するものであった。

BCGは有名な経営戦略ツールであるPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)も生み出した。市場成長率と相対シェアを軸に事業を4種類に分ける2×2のマトリクスで、定量的な分析が可能な点が革新的であった。市場成長率が低く、相対シェアが高い事業は金のなる木(Cash Cow)として投資資金の創出源とされた。市場成長率が高い事業は相対シェアが高いスター(Star)、相対シェアが低い問題児(Problem Child)に分かれ、金のなる木で生み出された資金をスター事業に最大投資、次のスター事業を育てるべく選別した問題児にも重点的な投資を行うことが基本方針とされた。

PPMはコトラーが提唱したプロダクト・ライフサイクル戦略と競争的マーケティング戦略を組み合わせたマトリクスであり、単純明快な事業診断ツールとして現在も企業戦略の構築に用いられている。GEのジャック・ウェルチがシェア2位以下の事業からは撤退するという大胆な戦略で成功したのもPPMが基盤となっている。1973年の第一次オイルショックは外部環境を激変させる重大事件であったが、大企業は多角化した事業の整理を行う上でPPMを大いに活用し、BCG躍進の契機となった。ちなみに市場成長率が低く、相対シェアも低い事業は負け犬(Dog)として撤退が基本方針とされているが、プロダクト・ライフサイクルの観点では成熟期ではなく導入期の可能性があり、一概に撤退すべき事業であるとは言えない。

★フレッド・グラック(1935~)
フレッド・グラックは弾道弾迎撃ミサイル開発のプログラムリーダーを務めた後にマッキンゼーに入社した異色の経営コンサルタントである。BCGの追い上げによって苦境に立たされていた1970年代のマッキンゼーを戦略系コンサルティングファームに変革した。マネージング・ディレクターであるロン・ダニエルの下で戦略サービス強化を推進し、パートナーを集めたセミナー合宿の開催を続けて1979年には売上の半分を戦略分野が担うまでに成長させた。

★マイケル・ポーター(1947~)
マイケル・ポーターは史上最年少35歳でHBSの教授となり、現在もポジショニング派の旗手として経営戦略の世界をリードしている。著書「競争の戦略」において、儲けられる市場を選び、競合に対して儲かる位置取りをするポジショニングこそ経営戦略において重要であると主張したポーターは、ポジショニングのための様々な経営戦略ツールを生み出した。業界構造を明らかにするための5フォース・フレームワークは企業に圧力をかける5つの力(既存競合、買い手、供給者、新規参入者、代替品)を分析するツールであり、業界構造の理解によって儲けられる市場かどうか判断できると論じた。

そして儲かる位置取りとしてコストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の戦略3類型を掲げた。自社が有利となるニッチ市場のみに集中する集中戦略は、コトラーが提唱する戦略的マーケティング・プロセスのSTPと整合する。対象とする市場を広く考える場合には競争優位の源泉をコストに求めるコストリーダーシップ戦略、顧客に対する付加価値の高さに求める差別化戦略に二分できると論じた。コストリーダーシップ戦略はBCGの経験曲線と整合するものであり、シンプルでありながら現実を見事に反映した経営戦略ツールであった。

また、ポーターは企業活動を価値創造の連鎖と捉えるバリューチェーンの概念を生み出した。ポジショニングを維持するためのケイパビリティ(企業能力)の重要性についても論じたが、ケイパビリティはあくまでもポジショニング実現のための手段として捉えるのがポーターであり、ポジショニング派とケイパビリティ派の長い論争が始まった。

◆戦争と経営戦略
経営戦略は企業経営を市場における戦争に例えた概念である。ナポレオン戦争の時代を生きたポーランド系ドイツ人のカール・フォン・クラウゼヴィッツは、ナポレオンが戦争に強かった理由として、目標地点の奪取にこだわらず勝てる場面でしか戦わなかったことを挙げている。また、イギリス人のフレデリック・ランチェスターは、銃火器が発達して一人が多数の敵に対して攻撃が可能となった戦闘において、戦力は兵員数の2乗に比例することを明らかにした。近世の1対1による白兵戦と異なり、近代戦闘においては戦力が算術級数的ではなく幾何級数的に増加していくことを示した。ランチェスターの法則と呼ばれる戦闘の数理モデルは経営戦略への応用が可能であり、シェア2位以下の企業はニッチ市場への集中戦略か付加価値を高める差別化戦略によってしか1位の企業に立ち向かえないことを示している。クラウゼヴィッツとランチェスターの知見は経営戦略の世界において、ポジショニング重視の戦略に適用することが可能である。

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