2016年1月9日土曜日

電力自由化における各社の小売戦略

2016年4月から始まる電力の小売全面自由化に伴い、電力市場における自由競争がいよいよ本格化する。新たにガス会社、総合商社、通信会社などが電力市場に参入することになる。また、既存の電力会社も自社エリアを守る一方で、他社エリアに進出することが可能になる。オフィス、商業施設、工場といった高圧以上については既に自由化されており、当初は既存の電力会社と新電力の攻防が中心であったが、最近では東京電力や関西電力も積極的に他社エリアへの進出を始めている。電力消費量は経済規模に比例しており、人口減少が進む日本では経済の縮小に伴って電力消費量も長期的には減少していく。いずれの電力会社も地域独占体制のままでは今後の成長は見込めないため、自由競争に突入するしかない。大正昭和の電力戦から今後の電力業界を予測するにおいて、戦前の日本で起きた電力戦について紹介した。これから始まる電力自由化は100年前に起きた電力戦の再来となるかもしれない。

電力自由化によって最大の激戦地となることが予想されているのが首都圏である。首都圏が日本最大の都市圏であることは言うまでもないが、その人口規模は都市雇用圏において約3500万人と日本の人口の1/4以上を占める。東京電力は福島第一原子力発電所の廃炉と賠償の負担が重く、2012年に電気料金を値上げしており、首都圏の電気料金は全国でも高い水準にある。また、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働も遅れており、更なる電気料金の値上げも考えられる状況である。いかにして東京電力から首都圏のシェアを奪うかが各社の戦略において重要となってくるだろう。

首都圏を供給エリアとする東京ガスは東京電力の最大のライバルである。東京ガスはガス事業で築いた販売網があるため、電気事業に参入することが容易である。電気とガスをセットで販売できることも強みだろう。また、東京ガスはLNGの調達能力を活かして既に発電事業に参入しており、扇島パワー80万kW(東京ガス75%)、川崎天然ガス発電80万kW(東京ガス49%)、東京ガス横須賀パワー24万kW(東京ガス75%)、東京ガスベイパワー10万kW(東京ガス100%)と四か所の火力発電所を有している。電力自由化に向けた電力会社・ガス会社の動向で紹介したように、東京ガスは発電能力をさらに増強する計画であり、九州電力・出光興産と千葉県に200万kWの火力発電所、中国電力・JFEスチールと千葉県に100万kWの火力発電所を新設する。さらに神戸製鋼所が栃木県真岡市に建設している120万kWの火力発電所からも電力を調達する予定で、発電能力は500万kWにまで達する見通しである。東京ガスは首都圏の電力市場において1割のシェアを獲得することを目標としている。
 
また、東京ガスは武州ガス(埼玉県川越市)など中堅の都市ガス5社と電力事業で提携することを発表している。東京ガスは関東全域で都市ガスの卸供給を行っており、この協力関係を活かして電力の卸供給にも取り組んでいく。首都圏の周辺には前橋都市圏(約140万人)、宇都宮都市圏(約110万人)、つくば都市圏(約70万人)、水戸都市圏(約70万人)、長野都市圏(約60万人)、甲府都市圏(約60万人)など魅力的な市場が広がっており、東京ガスは各地のガス会社と提携することで首都圏以外の電力市場にも進出することが可能になる。
 
東京ガスは東北電力とも提携し、北関東において電力小売事業を行うシナジアパワーを設立した。東北電力は東京電力と同じ周波数50hzの電力会社であり、東北電力の発電能力と東京ガスの販売網を組み合わせて東京電力から顧客を奪う戦略である。この提携関係は今後さらに深まっていくと思われる。エリア内の厳しい人口減少に晒される東北電力はこのままだと過剰な供給力を抱えることになり、首都圏に販売網を持つ東京ガスとの提携は東北電力にとって必須であると考えられるからだ。電力事業を拡大したい東京ガスにとっても東北電力との提携はメリットがある。10年後の電力業界・ガス業界で述べたように、東北電力と東京ガスは以前に共同で仙台市ガス局を買収しようとしたことがある。東北地方には規模の小さいガス事業者しか存在しないため、両社が協力して東北地方のガス事業を担っていくことも考えられる。将来的には両社の提携に北海道電力と石油資源開発も加わり、サハリンと日本を結ぶ天然ガスのパイプラインが建設されるのではないかと予想する。パイプラインによって天然ガスを調達することができるようになれば、燃料調達において圧倒的な価格競争力を有するようになる。
 
東京ガスの他に首都圏で主要なプレイヤーになると考えられるのは関西電力と中部電力である。関西電力は子会社である関電エネルギーソリューションを新電力に登録して、首都圏での電力事業に乗り出した。また、中部電力は三菱商事から新電力ダイヤモンドパワーを買収して、首都圏での電力事業に参入する。周波数60hz地域に属する関西電力と中部電力は周波数50hz地域において電源を確保することが課題であるが、両社の戦略は大きく異なる。
 
関西電力は東燃ゼネラル石油と千葉県に100万kWの火力発電所、丸紅と秋田県に130万kWの火力発電所、伊藤忠商事と宮城県に11万kWの火力発電所を新設する。自前の火力発電所を持ち、真正面から東京電力と競争していく姿勢である。一方、中部電力は東京電力と燃料調達、火力発電所の新設事業を統合し、新会社JERAを設立した。資金難の東京電力は中部電力から資金を引き出して火力発電所のリプレースを行い、中部電力は東京電力のエリアで発電能力を有するようになる。東京電力との提携には中部電力の他に東京ガスや関西電力も名乗りを挙げていたが、東京電力に次いでLNG調達量の多い中部電力が提携先に選ばれた。提携関係を勝ち取った中部電力は発電部門において東京電力と協力しつつ、小売部門では積極的に首都圏を攻めていくだろう。
 
東京電力は守勢に立たされる一方で、老獪な戦略を練っている。各社の電気料金を左右するのは発電単価であり、ほとんどの原子力発電所が停止している現在は火力発電の競争力が最大の武器となる。東京電力は中部電力との提携によって、火力発電事業において他社が追随できない程のスケールメリットを得ることになる。また、出力800万kWを超える柏崎刈羽原子力発電所が再稼働すれば、東京電力は発電単価において圧倒的な競争力を持つようになるだろう。中部電力は出力360万kWの浜岡原子力発電所しか有しておらず、火力発電事業が完全に東京電力と統合されることになれば、柏崎刈羽原子力発電所が再稼働した後は東京電力に価格競争で敗れる可能性がある。東京電力は一時的にシェアが奪われることは覚悟の上、最後には全て取り返すつもりで中部電力との提携に臨んでいるのではないだろうか。
 
さらに東京電力は防戦一方ではない。子会社のテプコカスタマーサービスを通じて全国で電力の小売事業を行っていく方針である。東京電力の強みは企業の本社が集中する東京に地盤を持つことであり、東京に本社を置く企業にアプローチをかけて、全国に電力事業を展開したい考えである。首都圏に次ぐ大都市圏を有する関西電力のエリアが主な対象であり、既にヤマダ電機とセブンイレブンの電力購入先を自社に切り替えることに成功している。電源構成に占める原子力発電の割合が5割に達していた関西電力は原子力発電所の停止によって厳しい経営状況が続き、電気料金を二度も値上げしたために全国でもトップクラスの高さとなってしまっている。関西電力は大阪都市圏(約1200万人)、京都都市圏(約270万人)、神戸都市圏(240万人)など魅力的な市場を抱えており、首都圏に次いで狙われるエリアとなっている。
 
東京電力のライバルが東京ガスであるように、関西電力にとって最大のライバルとなるのは大阪ガスである。これまでも大阪ガスはエネファームを武器に関西電力のオール電化戦略に対抗してきたが、これからは電気とガスのセット販売で関西電力から顧客を奪う戦略である。大阪ガスは特定規模電気事業者(PPS)としては日本最大級となる110万kWの泉北天然ガス発電所を有し、現状では東京ガスを上回る180万kWの発電能力を有する。さらに電源開発・宇部興産と山口県に120万kWの火力発電所、西部ガスと福岡県に160万kWの火力発電所、丸紅と茨城県に10万kWの火力発電所を新設する予定で、電力事業の拡大に注力する。
 
関西電力は東京電力以上にシェアを失う可能性が高い。中部電力が大阪ガスと提携して、関西電力のエリアに進出することが予想されるためだ。中部電力と大阪ガスは既に燃料調達において提携しており、中部電力の四日市火力発電所と大阪ガスのパイプラインを連結させるなど密接な協力関係にある。中部電力の発電能力と大阪ガスの販売網を組み合わせれば、関西電力からかなりの数の顧客を奪うことができるのではないかと考えられる。東北電力と東京ガスの連合は東京電力の6割程度の規模であるが、中部電力と大阪ガスの連合は関西電力の1.5倍程度の規模になる。関西電力にとって相当な脅威であり、停止している関西電力の原子力発電所は中部電力と大阪ガスの火力発電所に全て置き換えられてしまうかもしれない。
  
関西電力のエリアには中国電力も進出してくることが予想される。中国電力は島根原子力発電所を有しているが、電源構成に占める割合は1割にも満たず、原子力発電所の停止によるダメージが比較的浅い電力会社である。供給力に余裕のある中国電力は西日本全域で電力の小売事業に乗り出す方針で、関西電力だけではなく九州電力と四国電力のエリアにも進出する。特に九州電力が抱える福岡都市圏(約260万人)、北九州都市圏(約130万人)は地理的な近さから中国電力の進出が予想される。

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