2015年10月25日日曜日

農業+観光+再生可能エネルギーの3事業による農村経営モデル

TPP(Trans Pacific Partnership)によって日本の農業が衰退することが懸念されている。野菜と魚は全ての関税が撤廃され、聖域とされていた米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖の五品目についても影響が及ぶことが判明した。アメリカ合衆国など海外の安価な農産物が大量に日本に流入して、日本の農業はこれまで以上に衰退に向かうだろう。しかし、日本の農家のほとんどは高齢者であり、TPPの影響がなくても日本の農業は崩壊の一途を辿るだろう。農村の人口は激減しており、今後ほとんどの農村が消滅することになる。

個性ある各地の農村を消滅させてしまうことは惜しい。人口減少の進む日本では今後更なる都市化が進み、9割以上の人は首都圏のような大都市圏か、効率的に運営される地方のコンパクトシティで暮らすことになるだろう。そのこと自体は誤りではないと思う。都市化と一人当たりGDPの増加には明確な相関性が見られ、都市化が進むことは先進国の証でもある。ただし、日本はこれだけ多様性に富んだ歴史ある国土を有しているのだから、シンガポールのような新興の都市国家には真似できない、地域資源を活用した発展の仕方があっても良いのではないかと思う。農村の活性化はきっと日本経済を良くする。

農村の主要な産業は農業である。あるいは山村であれば林業、漁村であれば水産業となる。これらは収益性を改善する必要はあるが、今後も主要な産業として維持していくべきだろう。ただし、農業だけで農村を経営していくことは難しい。そこで農村の第二の事業として観光、さらに第三の事業として再生可能エネルギーに取り組むことを提案する。農業、観光、再生可能エネルギーの3事業によって、農村が有する地域資源をフルに活用し、持続的な農村経営が可能になる。

まず、農業については量を捨てて質で勝負していくべきである。量を諦めるということは食料自給率にこだわらないということであるが、そもそもTPP交渉からも分かるように農産物は需要に対して供給が過剰である。日本の経済力が維持される限り、食の安全保障が脅かされる事態は想定できない。TPPは日本の農業が変化する良い機会でもある。農産物の輸入自由化が進むことで、農業にも競争が持ち込まれて収益性が改善する可能性がある。

広島県尾道市瀬戸田町はレモンの国内生産量の半分を占める農村であり、かつてはレモンの輸入自由化で危機に直面した。しかし、瀬戸田町は安全で品質の高いレモンの栽培に特化し、輸入レモンが入り込む余地のない市場を確保した。農薬の使用を抑えて、防腐剤を使わないことで、瀬戸田町のレモンは飲料や食事への付け合わせとして重宝されている。また、飲料や菓子などへの加工と販売で6次産業化も果たした。瀬戸田町の農業改革は主に農協が中心となって行われ、競争に晒されることで瀬戸田町のレモン農業は発展を遂げた。TPPを契機に、他の農村も個性ある特産品の生産に集中するべきだと思う。そのためには稲作から果樹栽培や酪農といった収益性の高い農業への転換が必要になるだろう。

また、農村は第二の事業として観光に力を入れるべきである。ヨーロッパでは農村における体験型の観光がメジャーである。農業体験や農村での生活は新しいタイプの観光で、実は出会いの場として若者にも人気である。もちろん風光明美な景観を必要とするため、水田、畑、民家、道路などが入り混じった汚い景観の農村ではできない。北海道の美瑛町のような綺麗な農村であることが望まれる。そのため、山岳や海浜といった恵まれた景観を有する地域であることが条件で、組織的に農村の景観を整えていく必要がある。また、古い民家を改装して農家レストランや宿泊施設を整備し、都市から観光客を受け入れるための準備もしなければならない。星野リゾートが経営危機に陥ったホテルを再生するように、農村観光のプロフェッショナルがこうした農村の改革を進めていく必要がある。

農業、観光に加えて、再生可能エネルギーが農村の第三の事業となる。バイオマス、地熱、風力、中小水力といった再生可能エネルギーは農村の数少ない資源である。国は農村新興の側面から地域活性化に役立つ再生可能エネルギー事業をもっと支援していくべきだろう。発電所の経営は農村の貴重な収益となるが、再生可能エネルギー事業には初期投資がそれなりに必要となる。これについては農村の外部、即ち都市の住民から出資を求めるべきである。市民風車という市民セクターによる発電所開発モデルが既に存在しており、環境保護やエネルギー問題に関心のある比較的富裕な層から支援を得られる場合が多い。さらに新電力を立ち上げて、再生可能エネルギーで発電した電気を都市住民を中心に販売すると収益力がより向上する。都市住民には地域の農産物をプレゼントし、農村観光に招待することで、他の電力会社との差別化を図る。電気は商品として価格以外に差別化を図ることが難しいとされているが、高い電気であっても消費者に特別な価値を見出させることで購買意欲を引き出すことができるだろう。

農業、観光、再生可能エネルギーの3事業はそれぞれがシナジー効果をもたらす。例えば特産品の農産物や農業体験は観光資源となる一方で、観光客への物販や農家レストランなどで農産物の需要を押し上げてくれる。バイオマス発電や地熱発電で得られる余熱はハウス栽培に役立ち、実際に北海道森町は地熱発電の余熱を利用したハウス栽培でトマトの一大産地に成長した。山村であれば間伐材がバイオマス発電の燃料となり、本業以上の収益を生み出す可能性がある。福島県郡山市の布引高原には日本最大級の風力発電所があるが、猪苗代湖を望む布引高原は風車群によって一躍有名な観光地となった。

これらのシナジー効果を総合的な視点からコントロールするためにも、これら3事業を束ねて農村経営をリードする組織が必要となるだろう。食品流通、農村観光、電気事業といった分野の専門家、さらにこれらの事業を外部にPRするための広報活動に長けた人材も必要となる。一つの農村でこれほどの人材を揃えることは難しいため、農村コンサルタントのような組織が全国の農村をプロデュースしていくことが望ましい。農業は農林水産省、観光は国土交通省の観光庁、再生可能エネルギーは経済産業省の資源エネルギー庁というように各事業を管轄する省庁は異なるが、農村問題解決のために政府は分野横断的に農村を支援していくべきであると思う。

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