2015年10月17日土曜日

超大国ドイツが生まれた可能性

超大国の核となりうる地域はアメリカ東海岸、ヨーロッパ北西部、中国東海岸、日本の四地域しかない。人の居住に適した温帯で、外洋に面した港を有する地域がこの四地域しかないためである。この四地域は貿易港を中心に巨大な都市圏を形成し、世界経済の中心地としての地位を築く。ニューヨーク、ロンドン、パリ、上海、香港、東京といった世界都市は全てこの地域に集中している。人、物、金が集積するこれら四地域は潜在的に超大国を生み出す可能性を秘めている。しかし、これら四地域だけでは超大国に成長することはできない。周辺の地域を支配し、広大な農地、森林、鉱物資源、化石燃料を手に入れることが肝要である。第1次産業があって初めて第2次産業は生まれ、第1次産業と第2次産業があって初めて第3次産業は生まれる。

アメリカ合衆国はこの点において、全ての条件を満たしている。アメリカ中央平原は小麦、トウモロコシ、大豆など主要農産物の世界的大産地であり、鉄鉱石、石炭、原油といったあらゆる天然資源に恵まれている。過去の超大国である大英帝国も世界中に植民地を有することで、この条件を満たしていた。超大国を目指したドイツ帝国と大日本帝国はそれぞれヨーロッパ、中国を支配することでこの条件を満たそうとしていた。しかし、フランス革命以降の民族主義の時代においては、他民族の居住地域を長期的に支配することは難しく、これらの試みは頓挫した。アメリカ合衆国が超大国として現在も安定しているのは、その住民が人種や宗教は異なるといえども文化的に同質なためである。同じ条件を満たす中国も超大国となることは確実である。

アメリカ合衆国、中国の他に超大国となりえた国が一つだけある。それはドイツである。もしグスタフ2世アドルフが戦死しなければでは、スウェーデン王国によるドイツ統一のシナリオを検討した。ドイツを統一したプロイセンは小国から出発したため、統一ドイツの領域は自然と小さいものになった。異なる歴史を辿っていれば史実よりも規模の大きなドイツ帝国が誕生していたのではないかと思われる。超大国ドイツの最大版図は現在のドイツ、オーストリア、スイス、ネーデルラント3国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)、北欧5国(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、アイスランド)、中欧6国(ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、クロアチア)によって構成される。ドイツ、オーストリア、スイスは同じ民族であり、ネーデルラントと北欧もドイツとは同じゲルマン系で文化的に非常に近く、隣接するイギリス、フランス、ロシアとは全く異なる文化圏を形成している。中欧はドイツとは民族的に異なるが、近代以降プロイセンやオーストリアに併合されて同じ歴史を辿ってきた。経済的な繋がりは非常に密接であり、ドイツ人の入植も活発だった。18世紀後半から19世紀にかけてアメリカ合衆国に入植するドイツ人が多かったが、彼らが中欧に入植していれば中欧は完全にドイツと同化していただろう。中世におけるエルベ川以東へのドイツ人の入植が示すように、ドイツは潜在的に東方の空白地帯に進出しようとする傾向がある。

もし上記のような超大国ドイツ帝国が成立していれば、現在の人口は2億2000万人、GDPは10兆ドルに迫る。金融と商業に強いネーデルラントとスイスを加えることで、製造業に特化したドイツの弱点を補うこともできる。もちろん中欧はドイツ企業の工場が多く立地するドイツ製造業の後背地であり、北欧も小国でありながら世界規模のメーカーが密集するため、ドイツの製造業はこれまで以上に強化される。製造業の分野ではドイツ帝国はアメリカ合衆国を超えるだろう。総合的な国力としてはアメリカ合衆国の2/3程度の規模となり、アメリカ合衆国と十分に覇権を争うことができる。

超大国ドイツは空想の産物ではない。ドイツ帝国、ナチスドイツがイギリス、フランス、ロシア、アメリカ合衆国といった世界の大国全てを敵に回して世界大戦に突入したのは、自国に並々ならぬ自信を持っていたからであろう。ドイツに大局的な外交センスさえあれば、超大国ドイツ帝国は現実のものになっていたはずである。ヨーロッパ随一の知性であるエマニュエル・トッドも著書「ドイツ帝国が世界を破滅させる」において、EUシステムによって今後ドイツが超大国になる可能性を指摘している。史実では失敗に失敗を重ねたドイツであるが、少しでも歴史が変わっていれば現在は間違いなく超大国の地位に就いていたはずである。

ドイツが世界大戦で敗れた最大の要因は、ロシアとゼロサムの全面戦争に突入して国力を疲弊させたことであった。ドイツとロシアは東欧において利害関係が対立しやすいが、両国が同盟を結ぶメリットは非常に大きい。もしランドパワーの二大勢力であるドイツ帝国とロシア帝国がお互いに同盟を結んでいたら、両国はこれ以上ないほどの安全保障を得ることができただろう。ドイツ帝国はヨーロッパと中東、ロシア帝国は極東と中央アジアにおいて勢力の拡大に勤しむことができるようになる。また、ドイツの製造業とロシアの資源産業は補完関係にあるため、両国は経済的パートナーとしても相性が良い。ヨーロッパ大陸におけるゲルマン民族の統合、中欧への積極的な入植に加えて、ロシア帝国との同盟がドイツ帝国を超大国に飛躍させる鍵となるだろう。

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