2015年10月4日日曜日

独占禁止法から考える電力業界の再編

独占禁止法に抵触する市場占有率の目安は5割とされている。スケールメリットによる競争力向上を求めるのであれば、各業界の企業はいずれ2社もしくは3社に収斂していくと考えられる。航空業界は日本航空と全日本空輸の2社体制、通信業界はNTT、KDDI、ソフトバンクの3社体制が既に確立されている。経済産業省が業界再編に躍起になっていることもあり、今後の日本では大企業の合併による業界再編が加速していくと思われる。

鉄鋼業界は2012年に新日鐵住金が誕生したことで、2002年に誕生したJFEホールディングスとの2強体制が出来上がった。ただし、2社で完全にシェアを独占できているわけではない。新日鐵住金が3割強、JFEホールディングスが2割強、複数の鉄鋼メーカーが残りのシェアを少しずつ持ち合っている。それでも新日本製鐵と住友金属が合併するときに、シェアの高い一部製品の事業を別会社に譲渡せざるを得なかった。今後は業界3位で1割強のシェアを有する神戸製鋼所が既に新日鐵住金と提携しているため、更なる合併へと進む可能性が噂されているが、次は独占禁止法に抵触する恐れもある。

鉄鋼業界と並んでスケールメリットの発揮しやすい石油業界も再編が進む。2010年に誕生したJXホールディングスが3割のシェアを有し、業界2位の出光興産が2割弱、業界3位~5位のコスモ石油、東燃ゼネラル石油、昭和シェル石油がそれぞれ1割強のシェアを有する。国内の原油精製能力は過剰な状態が続いており、各社がジリ貧に陥る前に経済産業省は製油所の統廃合を進めたい考えである。今回、出光興産が昭和シェル石油を吸収合併することでJXホールディングスと並ぶ3割のシェアを有することになる。残るコスモ石油と東燃ゼネラル石油は千葉県の製油所を統合する方針で、更に提携を加速させて第3極を構築する可能性がある。あるいは、各社がJXホールディングスか出光興産の陣営に加わり、2強体制が確立されると思われる。

鉄鋼業界、石油業界と並ぶ重厚長大型の産業である電力業界とガス業界は効率性の観点から地域独占が認められており、先の二つの業界とは状況がやや異なる。電力大手は卸電気事業者である電源開発も含めて11社、ガス業界は大手こそ東京ガスと大阪ガスの2社に絞られるものの、中小のガス会社が無数に乱立した状態にある。送電網とガス導管網が電力大手とガス大手のコントロールから離れ、一般家庭まで小売りの全面自由化が進むことで、鉄鋼業界と石油業界の後に続いて今後は電力業界とガス業界でも業界再編が進むだろう。これはヨーロッパの電力会社・ガス会社BEST10で述べたように、2000年代に電力システム改革を成し遂げたヨーロッパ諸国で見られる現象である。最大で2社、多くても5社程度までには集約が進むのではないか。10年後の電力業界・ガス業界では東京電力と中部電力を中心としたグループ、関西電力を中心としたグループ、東京ガスを中心としたグループの3社に業界が集約されると予想した。電力業界とガス業界については、全国レベルでの市場占有率を気にする必要は今のところない。

しかし、地域レベルでの市場占有率には注意する必要がある。燃料や資材の調達、販売拠点の共通化などでスケールメリットを発揮しやすいが、同じ地域内で電力会社とガス会社が合併することは難しいだろう。例えば東京電力と東京ガスの合併、関西電力と大阪ガスの合併などである。電力会社とガス会社は電化とガス化でエネルギー需要を奪い合う関係にあり、同じ地域の電力会社とガス会社が合併した場合はこのエネルギー需要をめぐる競争が働かなくなってしまう。隣接する地域の電力会社が合併するのも難しいだろう。例えば関西電力と中部電力はトヨタ自動車の工場への電力供給をめぐって争ったことがあるが、両社が合併してしまうとこのような競争が起こりにくくなる。そのため独占禁止法に抵触する恐れがある。

公正取引委員会に認められると思われるのは、隣接する地域の電力会社とガス会社が合併することである。例えば、中部電力と大阪ガスの合併である。関西電力と大阪ガスは関西圏のエネルギー需要をめぐって熾烈な争いを繰り広げているが、中部電力の電源が大阪ガスに備わることで両社の争いは一層苛烈なものとなるだろう。大阪ガスの営業網を使って中部電力が電気を関西圏に供給する。電気とガスのセット販売もあり得るだろう。同じことは首都圏にも言える。東京ガスと東北電力が合併すれば、首都圏の電力市場をめぐる競争が促進される。

また、地域が離れた電力会社同士の合併は、電気の越境販売を阻害せずに、むしろ促進すると考えられる。東京電力が関西圏の電力市場を狙うとき、中国電力や北陸電力と手を組むことは効果的である。首都圏の発電所から関西圏に電気を供給するより、中国電力や北陸電力の発電所から電気を供給する方が送電コストがかからない。また、関西圏に発電所や営業所を設けるときも、共同で運営することで効率化を図ることができる。関西電力と中部電力が首都圏の電力市場を狙う時も同じことが言える。東北電力と手を組むことで、効率的に首都圏の電力市場を攻めることができる。このことから電力会社同士の合併についても、地域が隣接していなければ起こりうる可能性はある。

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