2016年1月7日木曜日

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11巻 感想

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。11 (ガガガ文庫)
渡 航
小学館 (2015-06-24)
売り上げランキング: 14,301

八幡の「それでも俺は本物が欲しい」という発言によって、ぎくしゃくしていた奉仕部三人の関係は元に戻ったかと思われた。しかし、雪ノ下が八幡を意識するようになったことで奉仕部の雰囲気は再び取り繕ったようなものになってしまい…というところで前巻は終わった。由比ヶ浜と雪ノ下、親友の二人が八幡を好きになったことで三角関係に突入した奉仕部の三人。11巻でも引き続き欺瞞に満ちた奉仕部の三角関係が描かれる。11巻の前半では三浦と川崎の依頼により、生徒会主催のイベントという形でバレンタインに向けた手作りチョコ教室が開かれる。ここでも雪ノ下と八幡が互いを意識する場面が描かれ、由比ヶ浜は居心地が悪い様子。三角関係の問題に加えて、雪ノ下の精神的な弱さも露呈する。雪ノ下の問題は他者の考えに依存してしまうことであり、これまでは姉の陽乃を追いかけていたが、今は八幡に依存するようになってしまっていた。さらに陽乃と雪ノ下母の介入が追い打ちをかけて、雪ノ下は精神的に滅入ってしまう。

この状況を打開するべく動いたのは由比ヶ浜であった。後半で由比ヶ浜は雪ノ下と八幡を水族館デートに誘う。由比ヶ浜は今の関係がずっと続けられるとは思っていないようで、この水族館デートを三人で過ごす最後の時間と考えているようである。雪ノ下も由比ヶ浜も互いの思いに気付いており、二人とも遠慮をしながら水族館でのデートは進んでいく。そして三人での最後のひと時を過ごした由比ヶ浜は、三人の関係について話を切り出す。

「これからどうしよっか?」
「ゆきのんのこと。それと、あたしのこと。……あたしたちのこと」
「もし、お互いの思ってることわかっちゃったら、このままっていうのもできないと思う……。だから、たぶんこれが最後の相談。あたしたちの最後の依頼はあたしたちのことだよ」
「ね、ゆきのん。例の勝負の件ってまだ続いてるよね?」
「あたしが勝ったら、全部貰う。ずるいかもしんないけど……。それしか思いつかないんだ……。ずっと、このままでいたいなって思うの」

由比ヶ浜は本心を隠してでも三人でこのまま友達の関係を続けたいと提案する。由比ヶ浜は雪ノ下の抱えている問題の答えが分かっており、奉仕部のルールを利用して願いを叶えようとする。困惑しながらも、由比ヶ浜の思いを無下にできない雪ノ下は由比ヶ浜に同調しかける。しかし、由比ヶ浜に同調しかけた雪ノ下を見て、八幡は由比ヶ浜の提案を拒絶する。

「その提案には乗れない。雪ノ下の問題は、雪ノ下自身が解決すべきだ」
「……それに、そんなの、ただの欺瞞だろ」
「曖昧な答えとか、なれ合いの関係とか……そういうのはいらない」

「……ヒッキーならそう言うと思った」

八幡の答えを聞いた由比ヶ浜は優しく微笑み、それを聞いた雪ノ下が二人に依頼を持ちかけるところで11巻は終わる。由比ヶ浜は何を思って、このような発言をしたのだろうか。10巻から八幡と雪ノ下が互いを意識している描写が多く、由比ヶ浜は二人が相思相愛の関係にあると思っているように見える。そのため八幡と雪ノ下が付き合うことによって自分の居場所が無くなること、雪ノ下に八幡を奪われてしまうことを恐れ、雪ノ下の精神的な弱さを突いて、現状維持という提案をしているように読み取れる。由比ヶ浜は自分が本当はずるい、卑怯な子だと言っている。八幡も由比ヶ浜が優しい女の子だと勝手に決めつけていたと述べている。このため表面的には上記のような解釈ができる。

しかし、由比ヶ浜は八幡の答えを予見しており、互いに気持ちを伝えられずにいる雪ノ下と八幡の現状を打開するべく、あえて二人の意思を明確にするために、このような発言をしたとも考えられる。由比ヶ浜は雪ノ下を無二の親友であると感じている一方、雪ノ下が好きになった八幡をずっと前から好いている。雪ノ下と八幡が付き合うようになれば、由比ヶ浜は一人ぼっちになってしまう。そんな未来を彼女が望むはずがない。それでも由比ヶ浜は二人のことが大切で、二人の思いを尊重しており、二人に幸せになって欲しいと考え、自らを犠牲にしてでも二人が前に進めるように、あえて八幡から反対の発言を引き出すような提案をしたのではないだろうか。もちろん現状のまま三人で仲良くしたいというのは由比ヶ浜の本心である。ただし、一方で由比ヶ浜は悲劇のヒロインになる覚悟もできており、自ら退路を断ったのである。

しかし、11巻を読んでいて思ったのは、八幡は雪ノ下と同じくらい由比ヶ浜のことも好きなのではないかということである。由比ヶ浜は八幡の心が雪ノ下に向いていると感じているのかもしれないが、八幡は由比ヶ浜のことも意識している。それは由比ヶ浜からデートに誘われたときの八幡のモノローグから読み取れる。

「断る理由も特にない。けれど、それでいいのだろうか、と。そんな疑念がふとよぎる。」
「確かにみんなで遊ぶと言うならこちらのほうがふさわしかろう。あの場所は三人で行くには少々面倒そうだ。だからまぁ、もしかしたら、またいつか。約束を果たせる日は来るのかもしれない。今日のところは、みんなで。」

八幡は未だに由比ヶ浜とのシーデートの約束を果たすことを考えている。雪ノ下と付き合いたいと思っているのであれば、八幡が「またいつか」などという考えを持っているはずはないと思うのである。ただし、八幡が雪ノ下を意識しているのも間違いない。このことから八幡は雪ノ下と由比ヶ浜のどちらにも好意を抱いており、どちらか一人を選ぶことができず、二人とも選ぶことを選んだのではないかと思う。

「欲しいものは別のものだ。馬鹿な奴だと思う。そんなのないって知ってるのに。突き詰めてしまえば何も手に入らないとわかっているのに。けれど。」
「それでも、ちゃんと考えて、苦しんで……。あがいて、俺は……」
「こんなの正しくないってわかってる。楽しいと、そう言えるならそれでよかったのかもしれない。ありえた未来や綺麗な可能性を想って過ごせたなら、誰も苦しくなんかならないだろう。」
「それでも、俺は理想を押しつけたい。微睡みの中で生きていけるほどに強くはないから。自分を疑った末に、大切に思う誰かに嘘を吐きたくはないから。」
「だから、ちゃんとした答えを。誤魔化しのない、俺の望む答えを、手にしたいのだ。」

由比ヶ浜の提案に反論を述べているときの八幡のモノローグである。八幡はちゃんとした答えを出そうとしており、これは一見すると雪ノ下と由比ヶ浜のどちらかを選ぶことを意味しているように思われる。しかし、八幡の望みは突き詰めてしまえば何も手に入らないものである。雪ノ下と由比ヶ浜のどちらかを選ぶのであれば、八幡はどちらかを手にするわけであり、何も手に入らないということは有り得ない。八幡の望みは理想であり、正しくないものである。八幡が望んでいるのは三人が本心を打ち明けた上で、この三角関係を続けていくことなのだと思う。

「俺と彼女の願いは目に見えない。けれど、たぶんその形はほんの少しずれていて、ぴったりと重なり合いはしないのだろう。」
「だからといって、それが一つのものにならないとは限らない。」

八幡は自分と由比ヶ浜の願いがずれてはいるが、決して相容れないものではないと考えている。由比ヶ浜は本心を隠してでも三人で仲良くすることを望んでいるが、八幡は本心を打ち明けた上で三人で仲良くすることを望んでいる。このように考えると、八幡が自分と由比ヶ浜の願いが一つになる可能性もあると考えていることも納得できる。そんな三人の関係は普通に考えて有り得ないものであり、正しいものでもない。八幡が自分の考えを打ち明ければ、雪ノ下と由比ヶ浜は八幡に幻滅して、八幡は雪ノ下と由比ヶ浜、どちらとの関係も壊してしまうかもしれない。それでも八幡が考えて、苦しんで、あがいて出した答えは、そのような関係なのではないか。そんな関係を築くことができれば、作品名の通り「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」と言えるだろう。

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